電車やバスを待つ数分間。ただ立っているだけのこの時間、使い方によっては、体にとって嬉しい変化をもたらすことができるかもしれません🌱
理学療法士として臨床の現場に立ち続けて24年。多くの女性の姿勢や体の悩みに向き合ってきて思うことは、運動習慣が定着しやすい方の多くは「隙間時間の使い方」が上手い傾向にあるように思います。
運動しようと思っても、日々忙しく過ごしている中で、しっかりと運動する時間を確保するのは非常に難しいのではないでしょうか?特に働く女性は、介護…家事…更に子育ても重なると尚更。
ジムに通う時間を新たに作るのは難しくても、「もともとある待ち時間」の使い方を少し変えるだけなら、今日から取り入れられます🌿
運動が必要なリハビリ中の方ですら、自宅での自主トレを指導すると「運動する時間がない」と口にする方が多くいらっしゃいます。けれど実際には、まとまった30分よりも、細切れの数分を1日に何度も積み重ねるほうが、生活の中に無理なく定着しやすいです。
今回ご紹介する3つの動きも、そうした「続けやすさ」を大切に考えました。
今回は、待ち時間にできる3つの動きについて、それぞれがなぜ体に働きかけるのか、解剖生理学的な視点から掘り下げてご紹介します。
なぜ「立っている数分」がトレーニングになるのか
普段、私たちは「筋トレ」というと、大きな動きや負荷をイメージしがちです。
しかし体の奥にある筋肉インナーマッスル(体幹部ーインナーユニット)は、大きな力よりも、正しい順序で小さく持続的に働かせることのほうが得意とされています。
インナーユニットとは、腹横筋・多裂筋・横隔膜、そして骨盤底筋群という、体幹の奥深くを取り囲む4つの筋肉群の総称です。

これらは互いに連動しながら腹圧(腹腔内圧)を高め、幹の安定性をつくっています。
今回ご紹介する3つの動きは、この連動を「待ち時間」という日常の隙間で引き出すことを目的としています。
姿勢を保つために働く筋肉には、瞬発的な力を出す線維(白筋)よりも、持久力に優れ疲れにくい線維(赤筋 )が多く含まれるという特徴があります。
そのため、大きな負荷をかけるトレーニングよりも、軽い力を「繰り返す」「持続させる」ほうが、こうした筋肉本来の働き方に合っていると考えられます。ここに姿勢改善のヒントも隠されています。姿勢を見直したい方は、この持久力に優れた筋肉を鍛えることをお勧めします。
信号待ちや電車待ちのような短い時間の積み重ねが、意外と理にかなっている理由はここにあります。
①つま先上げ・かかと上げ|下腿三頭筋と筋ポンプ作用
まずは軽く🌱
つま先を上げる→戻す
かかとを上げる→戻すこれをそれぞれ3回ずつ

つま先を上げる動きでは前脛骨筋が、かかとを上げる動きでは下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)が働きます。
下肢の静脈には、血液が心臓へ戻る際に開き、逆流しようとする際に閉じる弁があります。
そして、ふくらはぎの筋肉が収縮・弛緩を繰り返すことで、この深部静脈を圧迫し、血液を心臓へ押し上げる仕組みが「筋ポンプ作用」と呼ばれています。
立ちっぱなし・座りっぱなしが続く日ほど、この筋ポンプが働きにくくなるため、待ち時間の数回の上げ下げが、脚の重だるさ対策の小さな後押しになります。
また、つま先上げで働く前脛骨筋は、すねの前面にある筋肉で、歩行時につま先を持ち上げてつまずきを防ぐ役割も担っています。
かかと上げ・つま先上げを交互に行うことは、ふくらはぎだけでなく、すねの筋肉にも軽く刺激を入れることになり、立ち姿勢そのものの安定感にもつながっていきます。
②母趾から内ももへ|内転筋群と骨盤底筋の筋膜的なつながり
次は、立ったままの姿勢で
足の親指(母趾)にそっと力を入れて
その力を内もも全体に伝えるように意識してみてください
5秒キープを3セット

「親指に力を入れると内ももが締まる」という感覚は、感覚的なものだけでなく、解剖学的な裏付けがあります。
筋・筋膜の連続性に基づく体系的な整理として、Thomas W. Myersが提唱した「アナトミー・トレイン」の考え方では、内転筋群の一つである大内転筋が、坐骨結節や内閉鎖筋を介して骨盤底筋群と連結しているとされています(Myers, 2009)。
夜のほっとする
母趾から内ももにかけて力を集める動きは、単に太ももを引き締めるだけでなく、骨盤底筋群という奥の筋肉への準備運動としての意味を持っていると考えられます。
実際に行うときのコツは、内ももを「ぎゅっと挟み込む」よりも、親指の付け根から内ももの奥に向かって、線でつながるようなイメージで力が伝わっていくような印象です🌱
力み過ぎず、5秒キープの間、呼吸を止めないようにしましょう。
③骨盤底筋を鍛えて、骨盤底を締める|インナーユニットとしての協調収縮
内ももの力を保ったまま、骨盤の底の面を締める動き。
内腿は力を抜けずに
今度は骨盤の底の面を、トイレを我慢するようなイメージで
キュッと締めます。
3〜5秒キープ

「トイレを我慢するイメージ」という表現がよく使われるのは、骨盤底筋群の収縮方向を直感的にとらえやすいためです。
骨盤底筋群は、内臓を下から支えるだけでなく、腹横筋・梨状筋・横隔膜と共にインナーユニットを構成し、体幹の安定性に関わる筋肉として位置づけられています。

骨盤底筋群と腹横筋は同じインナーユニットの一部として機能的に連動しやすく、骨盤底筋群の収縮を促すことで腹横筋の活動も同時に高めていきます。
さらに、横隔膜も同じくインナーユニットの一部として、動きは連動しやすく、呼吸時、横隔膜が下がると腹腔内の圧力が変化し、骨盤底筋群もそれに応じてわずかに動くことが理学療法の研究分野で確認されています。骨盤底を締める際は「息を止めて力む」のではなく、「呼吸を続けながら、じんわり力を伝える」ことが大切なポイントになります。
骨盤底を締めると同時に、おへそから指3本分下あたり(下腹部)にも軽く力を入れると、腹横筋を含めたインナーユニット全体を、より協調させた形で働かせやすくなります。呼吸を止めず、じんわりと力が伝わるようにしてみて下さい。
2008年の山梨県立大学の研究では、仰向けや横向きの姿勢で股関節の内転・外転・外旋を軽く動かすと、骨盤底筋群の収縮活動が静的に高まるという結果が報告されています(小林たつ子ら, 2008, 山梨県立大学紀要)。

つまり、
寝る前やテレビを観ながらのまったり時間に軽くできるエクサエイズ
やり方は、膝を伸ばして内ももに軽く力を寄せるだけ
骨盤の底まで意識が届きやすくなるということ。
内腿をギュッと閉じる動きが、手軽な夜のセルフケアになります。
いつ・どれくらい行うと効果的か
このながら運動は、1回で大きな変化を感じるものではなく、日常の中で繰り返すことに意味があります。
神経と筋肉の連携(協調性)は、一度に強い力を出すことよりも、正しい動きを繰り返すことによって少しずつ整っていくと考えられているためです。
信号待ち、電車やバスを待つ時間、レジに並んでいる時間など、「立って数十秒〜数分、待つだけの時間」は、意識してみると一日の中に何度も存在します。
そのすべてで行う必要はありません。
まずは1日1〜2回、気づいたときに取り入れることから始めてみてください。
慣れてきたら、①〜③を一つの動きの流れとして行ってみましょう。
足元から内もも、骨盤底へと、下から上へ順番に力を通していく感覚をつかめると、立ち姿勢そのものが少し変わってくるのを感じられるかもしれません。
よくある質問
Q. 痛みを感じたらどうすればいいですか?
A. どの動きも、痛みを我慢して行うものではありません。違和感や痛みが出た場合はすぐに中止し、無理をしないでください。
強い痛みが続く場合は、医療機関にご相談されることをおすすめします。
Q. 靴やヒールを履いていてもできますか?
A. かかと上げ・つま先上げは、ヒールを履いた状態で行うと足部が不安定になりやすいため、お勧めしません。ヒールを履いている時は、無理をせず、母趾から内ももへ力を入れる(②)と骨盤底を締める動き(③)だけを行ってみてくだい。
◯地面の状態や周囲の安全にも配慮して行いましょう。
まとめ|隙間時間は「体に意識を向ける練習」の時間
- ①つま先上げ・かかと上げ
- 各3回:下腿三頭筋・前脛骨筋を働かせ、筋ポンプ作用と立ち姿勢の安定を後押し
- ②母趾から内ももへ
- 5秒×3セット:内転筋群を介して骨盤底筋への準備、体軸の安定性を図る準備
- ③骨盤底を3〜5秒締める(+下腹部も同時に)
- 呼吸と連動させながら、インナーユニットの協調収縮を引き出す。
- 体軸の安定性向上による良い姿勢を作る土台を整う
特別な時間や道具を用意しなくても、日常の「待つ時間」は、
体との対話の時間に変えることができます。
無理のない範囲で、できるところから取り入れてみてください。
最初から完璧にできなくても大丈夫です。
「今、ここに力が入っているかな」と意識を向けるだけでも、
体との向き合い方は少しずつ変わっていきます。
今日の帰り道、信号待ちの数十秒から、試してみませんか。
参考・関連文献
- Thomas W. Myers. Anatomy Trains: Myofascial Meridians for Manual and Movement Therapists. Churchill Livingstone(2009/第2版)/日本語版『アナトミー・トレイン』医学書院
- 小林たつ子、仙波美幸、五味千帆「表面筋電図からみた姿勢の違いによる骨盤底筋と腹直筋の活動に関する研究」山梨県立大学看護学部紀要(2008):https://www.yamanashi-ken.ac.jp/media/2008-kg-6.pdf
※ これは日常セルフケアの一例であり、医療行為・治療ではなく、効果を保証するものではありません。妊娠中・産後、持病や通院中の方、痛みやしびれのある方は無理をせず、医師や専門家にご相談ください。効果には個人差があります。
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