オンライン会議を終えて、画面を閉じる直前。ふと映った自分の横顔にドキッとする。首が前に出て、あごの下も少し重たそう。肩を回しても、夕方にはまた首がずっしりしてくる――。
そんな日が続くと、「年齢のせいかな」「もっと姿勢を意識しなきゃ」と自分を責めてしまいがちです。でも、毎日スマホとパソコンに向き合ってきた首は、それだけ頑張ってきた証拠。責める必要はありません。
こんにちは。理学療法士として24年間臨床に携わってきた、hitomiです。この記事では、首・あご・背中のつながりから、スマホ首のセルフケアを考えます。「気づく」「小さく動かす」「毎日の環境を整える」の5ステップで、とりあえず一つでも構いません。無理なく小さく始めてみましょう。
1.スマホ首とストレートネックは、同じ?
横から見たとき、頭が体の中心より前に出ている状態は「頭部前方位(とうぶぜんぽうい)」と呼ばれます。いわゆるスマホ首は、この姿勢を指して使われることが多い言葉です。
一方、ストレートネックは、レントゲンなどで首の自然なカーブが少なく見える状態の呼び名です。「頭が前に出ていること」と「首のカーブが少ないこと」は、同じではありません。見た目だけで判断はできませんし、カーブの形だけで痛みの有無が決まるわけでもありません。[1]
頭の重さは、成人で約4〜6kg。荷物を体から離して持つほど腕が疲れるのと同じで、頭が前に離れるほど、首まわりの支える力はより多く必要になります。ネットで見かける「負担が数倍」という数字は、計算モデルの条件によるもので、誰の首にも同じようにかかるわけではありません。[2]
うつむくこと自体は、悪いことではなく暮らしにも必要な動きです。気にしたいのは、疲れているのに同じ姿勢を長く続けてしまうこと。忙しい日は、姿勢の採点よりも「今日、ずっとスマホやパソコンの画面をみ続けた?いつ体を動かしたか」に目を向けてみてください。
2.首肩の重さ、二重あご、食いしばりの関係
横顔の印象も、首のつらさも、ひとつの原因では決まらない
同じ姿勢で画面を見続けることは、首や肩の疲れに関わります。ただ、睡眠不足、ストレス、運動量なども影響します。「姿勢が悪いから、全部そのせい」と思い込まなくて大丈夫です。
あごの下の見え方も、頭やあごの角度で変わって見えることがありますが、脂肪、皮膚の変化、骨格なども関わります。首の運動で二重あごが必ずなくなるわけではありません。一方で、写真の角度による見え方の違いは、頭の位置を見直すことで変わる余地があります。「角度の印象」と「組織そのものの変化」は、分けて考えましょう。
あごの筋肉も、休めていますか?
資料を読んだり、メールを打ったりしているとき、上下の歯が触れ続けていませんか。歯を強くかみしめると、頬の咬筋(こうきん)やこめかみの側頭筋が働きます。食いしばりや歯ぎしりは、あごの疲れや頭痛に関わることがあります。[3]
まずは、食事以外のときに歯が離れているか、気づくことから。朝起きたときのあごの痛みや、歯のすり減りがあれば、歯科で確認してもらいましょう。
なお、「首の奥の筋肉が弱る→あごが落ちる→食いしばりやあごの関節の不調が起きる」とされがちですが、あごの症状には、心理的な負担など複数の要因が関わります。[4] 口呼吸や強いいびき、飲み込みにくさが続くときも、スマホ首だけで説明せず、歯科や耳鼻咽喉科などに相談してください。
3.胸の前の筋肉ー胸筋が、頭の位置に関わることも
スマホもパソコンも、腕はいつも「体の前」
スマホを持つ。キーボードを打つ。マウスを動かす。毎日、腕を体の前に置く時間がとても長くなっています。このとき、胸の前の筋肉(大胸筋・小胸筋)は、縮んだ位置で過ごすことが多く、動きにくさを感じる方もいます。
特に小胸筋は、胸の奥にある筋肉です。肩甲骨の前側の出っ張り(烏口突起:うこうとっき)と、肋骨をつないでいます。ここが縮みやすい状態が続くと、肩甲骨が前に倒れ、肩が内側に入った「巻き肩」のような姿勢になりやすいと考えられています。
肩が前に入り、背中が丸くなると、視線を正面に保つために首の上のほうが反り、頭が前に出やすくなります。「胸の前 → 肩 → 背中 → 首」というつながりで、日頃の姿勢が決まってしまうことも。
胸の筋肉の硬さだけが頭の位置をきめるわけではないが、その一つの原因となっている可能性があるということです。「胸が固いから首が前に出る」と決めつけず、ひとつの見方として取り入れてみてください。
胸まわりが窮屈だと、こんなことも
- 胸が広がりにくく、呼吸が浅く感じる
- 背中の筋肉(肩甲骨の内側や下側)が引き伸ばされた状態になり、働きにくくなり機能低下をきたす可能性がある
- 首の奥の筋肉の働きにくさや、後頭部の緊張と重なることがある
背中の筋肉は、怠けているのではなく、前に引っ張られた状態で働きにくくなっています。だからこそ、「胸の前をやさしく広げる → 背中と首の奥を小さく動かす」という順番で、ケアを考えていきます。
4.「がんばりすぎる筋肉」と「働きにくい筋肉」
首の奥の筋肉と表面の筋肉で、仕事の分担が変わる
首の前側の奥には、頭と首を細かく支える「深層屈筋(しんそうくっきん)ー頭長筋・頸長筋」という筋肉があります。目立たないがとても大切な調整役です。

慢性的な首の痛みがある人では、小さくうなずく動きのとき、この深層屈筋の活動が少なく、首の表面にある胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)が多く働くパターンが報告されています。[5]
スマホはパソコン操作の時はこの筋肉達が働きにくい環境に置かれがちです。

顎を引いて頷く時に働くはずの首の屈筋は働きにくい状態が続く
「サボっている筋肉」と言いたくなりますが、怠けているのではなく、痛みや動きのクセで働き方が変わった状態です。筋活動が少ないため機能低下を招きやすい状態とも考えられます。だからこそ、強く鍛える前に、この筋が得意とする小さな動きを丁寧に練習する必要性があります。
後頭部の奥は「頭の位置を知らせるセンサー」
後頭部の奥には、後頭下筋群(こうとうかきんぐん)と呼ばれる、小さなインナーマッスルの集団があります。大後頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋の4つで、頭と首のつけ根を支えています。

この筋肉等は、大きな力を出す「モーター」というより、頭の細かな動きや位置を感じ取る「センサー」としての役割が大きいのが特徴です。筋肉の伸び縮みを感じ取る「筋紡錘(きんぼうすい)」が豊富な場所とされています。[6] 車のGPSのように、頭の位置の情報を脳へ伝え、目や耳の奥(内耳)からの情報と合わさって、視線やバランス、姿勢の調整に役立っています。
そのため、首まわりの筋肉がこわばったり動きにくくなったりすると、この「位置の情報」が伝わりにくくなり、バランスのとりにくさや、姿勢の安定感に影響する可能性があります。(注:バランスの取りにくさはさまざまな原因があり、首だけが理由とは判断できません。)
労時は感受性が高い:疲労や睡眠不足、ストレス時には痛覚過敏が強まりやすく、同じ圧でも強く感じられます。したがってケア時は「痛気持ちいい」ではなく、心地よい・軽い圧が目安です。
だからこそ、首のつけ根が張るときは強く押し続けず、頭を支えて休ませ、心地よく動かす時間をつくりましょう。後頭部のインナーマッスルへのやさしいケアは、スマホ首だけでなく、「立っているときの安定感が気になる」「画面を見たあとに首まわりが固まる」という方にも、取り入れやすい視点です。
5.今日からできる、小さな5つのケア
胸の前をやさしく広げてから、背中と首の奥を小さく動かす順番がおすすめです。軽い不調がある方向けの、始め方の例です。痛み、しびれ、めまいが出たら中止してください。
① 後頭下筋のストレッチとリラクゼーション
- 後頭部:仰向けで、頭を薄いタオルで楽に支え、ゆっくり3呼吸。
- あ:上下の歯を離し、舌は上顎に付ける。頬を指の腹で横にやさしく小さく動かす。
②タオルで胸をひらく(大胸筋・小胸筋)
- 筒状に丸めたバスタオルを、背中(肩甲骨の下あたり)に横向きに敷いて、仰向けになります。
- あごを軽く引き、両腕を体の横からゆっくり頭の上へ伸ばします(バンザイ)。
- 腕の重みで胸の前が広がるのを感じながら、20〜30秒ほど呼吸を続けます。慣れてきたら、1分ほどまで延ばしても構いません。

腰を反らさない範囲で行いましょう。肩に痛みが出るときは、腕を下げて、楽な高さに置いてください。
③小さく「はい」とうなずくー首のエクササイズ
これは首の前面にあるインナーマッスル達のやさしいエクサイズです。
- 仰向けで膝を立て、必要なら薄いタオルなどで頭を支えます。
- 頭を床につけたまま、小さく「はい」とうなずきます。
- 3秒ほど保って緩め、まずは5回を目安に。
あごを胸へ押しつけず、鼻先でごく小さな弧を描く感覚です。首の表面が張るときは動きを小さくします。息を止めずに静かにできることが目安です。この練習だけで首の筋力すべてを補えるわけではありません。[5]
④ 背中の動きを引き出す
四つ這いになり、手は肩の下、膝は股関節の下へ。背中を軽く丸めてから、自然なカーブに戻す動きを5回ほど行います。首だけを反らして前を見ないようにしましょう。骨粗鬆症や背骨の骨折歴がある方は、事前に担当医・理学療法士へ確認してください。
⑤広背筋のストレッチ
四つ這いのままでお尻をゆっくりと後ろへ下げる。
手のヒラを上に両方の腕を伸ばす。

5秒キープを3セットからやってみましょう。
5.「休む」から始まる姿勢ケア
「休む」を、先に予定へ入れてみませんか
首のつらさや姿勢の崩れは、1回の姿勢の悪さからくるものではなく、同じ姿勢が長く続くことが誘因になることが多いです。そこで目安にしたいのが、厚生労働省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」です。パソコンなどを使う仕事について、次のような休み方が示されています。[9]
- 連続作業は1時間以内に区切る
- 次の作業までに、10〜15分ほど休む
- 作業の途中にも、1〜2回の「小休止」を入れる(小休止は1〜2分ほどの短い休みです)[10]
「1時間も休まず座っていた」という日は、多いのではないでしょうか。いきなり全部を守ろうとしなくて大丈夫です。まずは、タイマーを50分にセットして、鳴ったら1〜2分だけ画面から目を離すところから始めてみてください。
小休止の1〜2分は、こんな使い方がおすすめです。
- 立ち上がって、肩の力をストンと抜く
- 遠くを見ながら、深呼吸を3回
- 両手を組んで空に向かって背伸びをしてみる
「休む」から始まる姿勢ケアを始めてみませんか。
目印にしたいのは「感じ方」の変化
見た目の採点よりも、「夕方の首が少し楽、動きの軽さ」「目の疲れが少しいい」「集中力が少しあがった」といった、そのほんの少しの変化がケアの始りサインです。
忙しい日々の中で頑張っている私達は最も大事にしないといけないもの。
それは言うまでもなく自分の体ではないでしょうか。ほんの少しでいいです。自分の体の声を聞いてみませんか?
人のため、仕事のために頑張ってきた首に、少し休む時間をあげてください。
今日の小さな一歩は、「50分たったら立ち上がり、深呼吸をしてみましょう」。
※記事内容は、一般的なセルフケアです。効果を保証するものではありません。強い首の痛みや腕のしびれは医療機関へ。突然の激しい頭痛や手足の脱力などの症状やその他気になる症状がある場合は、セルフケアをする前に受診しましょう。
参考文献
- Oakley PA, et al. (2024). Two Methods of Forward Head Posture Assessment: Radiography vs. Posture and Their Clinical Comparison. J Clin Med. 13(7):2149. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38610914/
- Hansraj KK. (2014). Assessment of stresses in the cervical spine caused by posture and position of the head. Surg Technol Int. 25:277–279. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25393825/
- National Institute of Dental and Craniofacial Research. Bruxism. https://www.nidcr.nih.gov/health-info/bruxism
- National Institute of Dental and Craniofacial Research. TMD (Temporomandibular Disorders). https://www.nidcr.nih.gov/health-info/tmd
- Blomgren J, et al. (2018). Effects of deep cervical flexor training on impaired physiological functions associated with chronic neck pain: a systematic review. BMC Musculoskelet Disord. 19:415. https://doi.org/10.1186/s12891-018-2324-z
- Liu JX, Thornell LE, Pedrosa-Domellöf F. (2003). Muscle spindles in the deep muscles of the human neck. J Histochem Cytochem. 51(2):175–186. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12533526/
- Anatomy Trains / Tom Myers. The Deep Front Line: A New Concept of Core.(提唱モデルの説明に参照。効果の証明としては使用していません)https://www.anatomytrains.com/product/the-deep-front-line-a-new-concept-of-core/
- Kalichman L. (2025). Myofascial continuity: Review of anatomical and functional evidence. J Bodyw Mov Ther. 45:569–575. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41316622/
- 厚生労働省. 情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて(基発0712第3号/令和3年12月1日最終改正). https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6314&dataType=1&pageNo=1
- 厚生労働省. 情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン 解説パンフレット. https://www.mhlw.go.jp/content/000580827.pdf
※掲載した回数・呼吸数は、一般向けの少量から始める例であり、研究で検証された治療プロトコルの再現ではありません。

